大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

津家庭裁判所 昭和41年(家イ)77号 審判 1967年4月01日

申立人 川田直幸(仮名)

相手方 木下一郎こと一郎コールマン(仮名) 外一名

主文

縁組養父トーマス・ビー・コールマン及び縁組承諾者親権を行う母木下明子届出昭和三六年六月二二日神奈川県相模原市長受附に係るトーマス・ビー・コールマンと木下一郎(当時の本籍東京都武蔵野市○○町○丁目一四二〇番地)との養子縁組の無効なることを確認する。

理由

一、申立人は主文と同旨の調停を求めた。

二、申立人は昭和二九年二月一日木下明子と婚姻し昭和三二年一月二五日相手方木下一郎を儲けたが昭和三三年三月一八日親権者を母明子と定めて協議離婚をし一郎は昭和三三年四月二二日明子の戸籍に母の氏を称する入籍をした。その後明子は昭和三六年三月一六日当時日本に駐在していた相手方トーマス・ビー・コールマンと婚姻し同年六月二二日トーマスを養親一郎を養子明子を代諾者とする養子縁組の届出を神奈川県相模原市長になした。届出は申立人の不知の間になされたものであり同人は縁組に同意はしていなかつた。昭和三八年二月頃これを知つた申立人はトーマスに対し養子縁組の解消と一郎の引渡方を要求した。トーマスは当初これに応じなかつたが結局実父たる申立人の手で養育されることが一郎を幸福にすると考え縁組を解消することを決意し昭和三九年未一郎を申立人に引渡し申立人や明子その他の関係人と協力して離縁乃至縁組取消の手続をせんとしたが手続未了の間に帰国のやむなきに至り申立人その他の関係人に手続を依頼して同年四月弘子と共に帰米した。

三、相手方一郎も亦縁組の解消を切望している。

四、法例第一九条によれば養子縁組の要件は各当事者につきその本国法によつて定めるべきことになつているところ一郎の本国法であるわが民法第七九八条但し書によれば未成年者一郎はトーマスの妻明子の子であるから本件養子縁組については家庭裁判所の許可を必要としないわけであるがトーマスの本国法であるアメリカ合衆国ペンシルバニア州法によれば養子縁組については裁判所の養子決定を必要とする。この要件は養親養子双方の要件であると解するのが相当である。本件ではアメリカ合衆国の裁判所の養子決定は得ていない。わが国家庭裁判所の縁組許可の審判の手続を以てアメリカ合衆国の裁判所の養子決定の手続を代行し得ると解しても本件は家庭裁判所の縁組許可の審判を得ていない。アメリカ合衆国法の養子決定は縁組を成立せしめる裁判所の創設行為であると解されるのであるからこれを欠く本件養子縁組は無効としなければならぬ。

五、本件調停委員会の昭和四二年三月三一日の調停期日に申立人は出席したが相手方トーマス及び一郎は出頭しないので家事審判法第二三条の審判の前提としての調停が成立しないから前叙認定事実等一切の事情を斟酌して調停に代る審判をなすを相当と認め調停委員の意見をきいた上家事審判法第二四条に則り主文のとおり審判する。

(家事審判官 村上久治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例